クラスメート


「僕は17HRから来た井森 絹生(いもり けんせい)です。好きな動物は死なせウサギで……」

 ……なんか一人目から強烈なのがいるんですけど……死なせウサギって日曜の朝早くから

やってるアニメに出てくるキャラだったような……好きな動物っつーかキャラじゃん。

おかげでクラスは大爆笑、拍手の渦。後で去年同じクラスだった武市に聞いてみると、去年も

同じような紹介をしていたらしい。聞きたいような聞きたくないような。

 ともかく1発目にこんなんが出たので、終始和やかに自己紹介は終わる……はずだったのだが。

「妹尾 蔦哉(せのお つたや)です……よろしくお願いします」

 うわ淡白。俺のすぐ前で。ほら拍手は乾いてるし。まあある意味こっちのほうが安心

するんだが、勢いというものも失せてしまうし。確か彼は数学は毎回満点で学年トップと

聞いたことがあるな、他のはよく知らんが。つーか彼が席に戻って俺の番か。あんまり

気は進まないがやらねばならぬ。席を立ち上がって教卓まで歩く。前に立つと全員の顔が

よく見え、こっちを見ていた。一番遠くにいる瞳由ちゃんも……

「えー、タイト テツです。気づいた人もいるだろうけど俺の名前はカタカナで書かれていますが」

 俺は「いつもの」自己紹介をした。これは小学生の時から何度も言っているような

気がするのだが、初めに言っておかないと必ず訊ねられるのでこうなる。まあネタに

困ることがないのはありがたいことだが、去年同じクラスの奴らを飽きさせるのも考えようだ。

少しはアレンジしたほうがいいか?

「ちゃんと漢字で書ける名前です。知りたい人はこそっと尋ねてください」

 ……自分で言ってなんだかよくわからんアドリブになってしまった。笑いというか

失笑ぽいのがいくつか……

「えっ、えっ、どんなのどんなの?気になる、書いて書いて!」

 なんかいきなりハイテンションな女生徒に頼まれてしまった。そういえばこの娘さっきも

誰かにこういう感じでしゃべってたような……地か? まあ書いてもいいけど、これじゃ

去年と同じだ、黒板に大きく書いて、生徒は言葉を失うと。ワンパターンでつまらんかも。

そうでないのは先生と、去年のクラスメートと、武市と、……瞳由ちゃんくらいか。

で、なんかうやむやのうちに席に戻るのもいつも通りだ。黒板は消されずに、俺の名前が

堂々と書かれてるのは恥ずかしいが、これが人名とは普通思われないだろう。

「武市 隆等です……よろしくお願いします」

 って、またそんなんかよタケ。つーか前の妹尾と変わらんじゃん。そういえば2人は

幼稚園からの友達らしいが。この辺の言葉少なさは共通点か。あと男子で目立ったのは、

やはり綿貫 桂二。

「男子のトリを勤めさせていただくのは、将棋部所属、綿貫 桂二でございます〜!」

 なんかお調子者だな、でもそういうのが人気者になるんだし。去年は室長だけではなく

生徒会役員にもなったし、文化祭実行委員にもなってたし。リーダーシップはあるだろう。

そして女子。始まってすぐに、例のハイテンション娘が登場。

「逢坂 篠(おうさか しの)です。家業は神社で、手伝いでで巫女もやってます♪」

 巫女ってそんなマニアックな……じゃなくて、そういえばそういう名前の神社もあったっけな、

逢坂神社。他の県のを聞いたんだっけ?まあありそうな名前だが、彼女の性格は別物だが。

まあそんなこんなで女子の紹介も進む。可愛い子は見ようとするのだが、まあ可愛いと思うだけ、

それ以上の感情は出ない。毎年これだから、出会いとかもないのだろうな、普通の出会いは。

瞳由ちゃんとの出会いは、よくあるのではないものだろう。なんせ隣に引っ越してきた上に、

同じ学校同じクラスだし。意識しすぎと言えばそれまでだが、俺が特別な出会いと思っていれば、

彼女は特別な存在になりうる――ってそーなのか?

「えと、列戸 瞳由です。」

 気づけば自己紹介も最後、しかも瞳由ちゃんだった。思わず身を起こして聞き耳を立てる。

瞳由

「都合で部活には入ってなかったけれど、今年は何か入ろうと思ってます。できればどこか

さそってください。よろしくお願いします♪」

 ……まあそんなもんか。俺が事情知ってるからそう思うだけだが。1年たっても1つも

部活入ってないというのは珍しがられるかもしれんな。……俺もだけど。しかし、なんか

拍手が他の人より多い気もするが――まあ長い自己紹介がやっと終わった、最後だから拍手くらい

真面目にやっとくか、ということだろう。俺も1年のときはそう思ってだろう。だが今年は

何か名残惜しかった。

 その後は投票だ。俺は無難に綿貫 桂二の名前を書いた。彼もやる気ありそうだし。

書いた紙を後ろから集めて、即開票。結果――室長は当然のごとく綿貫。副室長は逢坂さんに

なった。瞳由ちゃんもなんか3票ほど入ってたし。俺は1票だけ。しかもご丁寧に「漢字で」

書いてるところをみると、逢坂さんだろうか。その票が開けられたときなんか笑ってたし。

 あとは席替え。多少は瞳由ちゃんと隣同士――など期待したが、前過ぎず後ろ過ぎず、

なんてことはない席の位置だった。瞳由ちゃんはさっきと大して変わらない窓側だ。むしろ

武市のほうが近かったりする。まあどうせ1ヶ月だし。なにしろ彼女とは家が隣同士だし。

 そんなこんなで、明日から授業だ。


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