線香花火


「瞳由〜!久しぶり〜」

「彩音も元気そうね」

 夕方になって海から出、瞳由ちゃんのおじさんの家に向かった。つけば彼女のいとこの

列戸 彩音(れつど あやね)さんが迎えてくれた。二人は同い年らしい。

「今晩お世話になります、千代川 七希菜です」

「あ、僕は名倉 佑馬っていいます」

「……タイト テツです」

 丁寧に自己紹介する七希菜ちゃんに習って、慌てて後をまねる男二人。

「ごていねいに。さあ皆上がって、晩ごはんの用意ができてるわ」

 その夕飯には、さすが海の近くというだけあって海産物がずらりと並んでいて、俺たちの

舌と腹は満足した。おじさんおばさんも久しぶりに大勢の若者と話しながら食事が出来て

楽しかったとのこと。

 この辺は街中ではないので、日が沈むと明かりはほとんどなく真っ暗となる。車なども

通らないので虫の音がよく聞こえる。そんな中、5人で花火をやることになった。風呂上りに

用意してもらった浴衣に着替えて庭に出る。

「そういや最近花火なんてしてなかったよな」

「なんか忙しい生活だったからなんかじゃない?」

 独り言っぽく俺は呟き、佑馬がそれに答える。まあ高校生からはマンション住まいだったし、

中学の時も妹にせかされて花火セット買ってやったくらいだし……自分から花火やりたいと

思ったのはホント久しぶりだな。

「じゃあ1発目はこれで」

 彩音さんがまず打ち上げ花火を取り出した。普通に売ってる打ち上げ花火ってのは、ほとんどが

知れた高さまでしか上がらないものだが。倒れないように土で周りを固めてから、導火線に

マッチの火をつけ、皆花火から離れる。数秒後……

どーん!!

 予想外の大音量に一瞬耳をふさぐのが遅れる。かろうじて視線を上に向けると、花火大会の

花火まではいかなくとも、かなり大きな花が夜空に咲いた。あっけにとられてふと気づくと、

彩音さん以外みんな俺と同じように耳に手をやり呆けた顔をしていたので、顔を合わせて一斉に

吹き出す。こうして俺たちの花火大会が始まった。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、もう花火は数本になっていた。最後に残ったのは

お約束か線香花火。ちょうど皆一本ずつ持って、同時に火をつけた。

「誰が一番最後まで残るかしら」

「こういうのって残すコツとかあるのかな?」

「やっぱりできるだけ動かないとか」

「同じように見えても火薬の量が微妙に違うとか。それを見極めなきゃ」

「でも玉が落ちたらそれで終わりでしょ?」

「……確かに――あ、落ちた」

 結局最後まで残ってたのは七希菜ちゃんの線香花火だった。自然と皆彼女に集中する。

一番浴衣が似合ってるのは彼女かもしれない。それはつまり大和撫子だからということだろうか。

瞳由ちゃんはといえば……誰とでも親しくなれそうな彼女はアメリカンとかそういう感じかも。

七希菜 & 彩音

「あっ」

 ようやく七希菜ちゃんの花火の玉が落ち、あたりは真っ暗となった。

 

 夜、生まれて初めて蚊帳の中で寝ることになった。当然佑馬と二人で、隣の部屋には女の子

三人である。豆電球もつけず本当に真っ暗だ。外は相変わらず虫の声だけが聞こえる。さすがに

ホタルとかはいないようだが……ふと、人間の声が聞こえた。

「七希菜ちゃんと佑馬君は付き合ってるんだ」

「まあ、そういいますね」

「じゃあタイト……は苗字だっけ、テツ君は瞳由と……」

「そ、そんなんじゃないよ」

 声は隣の部屋の女の子たちのものだった。しかし瞳由ちゃんに否定されるのは痛いな……

一応照れたように聞こえたのがせめてもの救いだが。もっと聞こうとは思ったが、あまり

聞き耳を立てるのは悪いし、それ以前に眠たくて仕方なかったので寝ることに集中した。

隣の佑馬は既に爆睡してるし。彼女たちの声はより遠くに聞こえる感じがしてきた……

「でも彼かっこいいと思うよ、私ならつきあってもいいかな」

「え……?」

「冗談よ、遠距離恋愛なんてヤだからね。でも私と瞳由って好みが似てるから、きっと瞳由も……」

「ちょ、ちょっと彩音……」

「お似合いだと思いますヨ」

「千代川さんまで……」

 

 次の日の朝、帰ることになった。またここに来ることを彩音さんと約束して、帰路につく。

よく見れば皆よく焼けていた。一日海にいただけでこんなに焼けるものなのか、やっぱ照り返しで

2倍まぶしいから……つーか微妙にヒリヒリするな。

「海に来て良かった?」

 帰りの電車、誘った瞳由ちゃんの質問に対し、俺は笑顔でうなづいた。


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