仲人


 2学期が始まって授業。でも補習してたからそれほど苦とは思わないよな。9月になって

やや暑さが緩んで、エアコンも丁度いい温度に保ってくれるとなると、快適すぎて眠って

しまいそうだ(ぉ 春眠暁を覚えずって言うけど、秋でも同じことが言えるんじゃ……

 

「タイト君タイト君」

 ふと、俺を揺り起こす感覚が。起こす……ってホントに寝てたのか!?

「……ええっ?」

 妙な声を上げて頭を起こすと、そこにいたのは先生――ではなく、武市だった。周りを

見回しても生徒たちはそれぞれ自由に喋っている。どうやら休み時間になったらしい。

って、「起立、礼」があったはずなのに、そこですら寝てたのか……まあ見逃す先生も先生だが。

「なんだ、武市か……何か用か?」

「廊下で女の子に呼ばれてるよ」

 はて、女の子……瞳由ちゃんなら教室にいるし、七希菜ちゃんなら武市も知っているから

名前を言うだろうし……とにかく教室を出てみることに。

「あ、タイト君よね」

「えと……君は……」

 そこにいた女生徒は確かに面識があったが、会った回数は少ないと思うので名前が思い

出せない。向こうは覚えてるのにかなり失礼だが。

「ごめん、なんて名前だっけ」

「河合です、河合宇宙。天文クラブの」

 ああ、あのときあおいちゃんと一緒に連れてってもらって見学した時……あおいちゃん……

また嫌なことを思い出してしまったな……

「それで、俺に何か?」

「あおいちゃんと仲直りしてくれませんか」

 いきなり何かと思えば……彼女もそのことを知っていたのか。「あの」ことは知ってるかは

知らないけど。

「仲直りって……別にケンカ別れしたわけでもないし」

「あおいちゃん、最近元気がないんです」

 元気があるもなにも、いつ見ても同じに見えるんだが、親友となるとわかるものなのだろうか。

「どうしたのって聞いたら、タイトさんに嫌われたって」

「俺に? 別に俺は嫌ってなんか」

 彼女のためを思ってこそ、俺は余計なことを言わないように彼女から遠ざかったんだ。

でも彼女は俺に嫌われたと思ってしまったのか……てことは、彼女は俺のことをまだ嫌って

なかったのか?

「何があったのか知りませんけど……あおいちゃんが元気じゃないと、わたしもなんだか

 辛いんです、無茶かもしれませんけど、仲直りしてください」

 そこまでこの子はあおいちゃんのことを……もしかしたら、本当に明るい子になって欲しいと

願って友達になっているのかもしれない。そしてその気持ちは俺にもわかる。

「無茶だなんて……俺が勘違いしてたんだ、また仲良くするよ」

「本当!?……あおいちゃ〜ん!」

 いきなり後ろを振り返って名前を呼ぶ。まさか……廊下のかどからひょいっと顔をのぞかせた

のは、やはりあおいちゃん。手には俺があげた丸いぬいぐるみ(弟の代わりだったな……)を

しっかりと持っていた。

あおい & ソラ

「彼、仲直りするって!」

 だから仲直りとは言わないんじゃ……まあいいか、これで俺も罪悪感からは少しは開放される

わけだし。河合さんの言葉を聞いて、あおいちゃんもこちらに小走りにやってきた。

「テツさん……ごめんなさい」

「いや、君があやまることじゃ……むしろ俺の方が」

「でも……ありがとうございます」

「……ま、いっか」

 ここで授業が始まるチャイムが鳴る。二人は自分たちの教室に戻りかけたのだが。あおい

ちゃんを先に行かせたあと、河合さんが俺のほうへ振り向いた。

「わたしよりも、あなたの方が先にあの子を笑わせてあげられるかもね」

「……笑わせる?」

「あおいちゃん、もしかしたらあなたのことが好きかもしれませんよ(^-^)」

 そう言って走り去っていった。なんだ、笑わせるっててっきり面白いことを言って爆笑

させることかと思った……あれ、彼女そのあと何て言ったっけ?

「こらタイト、さっさと教室入らんか」

 担任の先生にどやされる。おっと次は俺の得意な数学だったな。これは居眠りしなくて

済みそうだ。あわてて自分の席に戻ることに。

 ……でもさっきなんて言われたんだ?ギャグを言って笑わせる以外……美味いものを食わせる、

かわいいものをあげる、なんてことは、まるで二人がつきあっているみたいじゃねぇか。

それは彼女が俺のことを好きじゃないとありえんことだ。ま、そうだったらいいけどな。


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