学園祭・2日目


「レッド、本番はミスらないでよ」

「お、おう……」

 あまり呼びなれない名前で宗谷に言われたので、いろんな意味で戸惑いながら言葉を返す。

学園祭の1日目は無事終わり、どっと疲れて6th styleが出てるというのにやらず朝まで

ぐっすり、気付けば2日目の朝だった……で今バンドクラブの部室。いよいよ本番である。

既に部室には全員――俺(Led)が唯一、キーボードで演奏する1曲目ではベースの針井(Shannon)、

ギター兼サブボーカルの宗谷(Sofia)、ドラムの上久部長(Evrue)、そしてメインボーカルの

瑠璃絵さん(Feril)だ。5人っていうのは丁度いい数だと思うが、この1曲目だけなんだよな……

やっぱり練習不足だったのかなぁ、俺……だが今はこの1曲に集中だ。

「そろそろ時間やな」

 部長の言葉で皆部室を出、グラウンドに設けられた野外ステージへと向かう。楽器は既に

運ばれており、俺らも他の参加者も同じものを使う。針井は自分のギターを持ってきてるけどな。

 スケジュールの都合で、体育館で行われる学芸会、まあクラスで劇をするようなものだが、

それと時間帯が重なっていて、こっちにいる人数は思ったより少ない。それでも俺には多い数だ。

「こりゃ緊張するなぁ……」

「私も、これだけの人に注目されて歌うのは……」

 瑠璃絵さんも緊張しているようだが、どっちかというと昂ぶっているようにも見えた。

注目されて歌えるようになることが、歌手になるための必要条件だもんな。

「テツ〜!」

 ステージの裏へ回りかけたとき、観客の一人から名前を呼ばれる。あれは……美鳥だ。

本当に来てくれたのか……駆け寄ってきたので他のメンバーを先に行かせて俺だけ立ち止まる。

「てっきり6thをやりに行くものと思ってたけど」

「えーひどいなぁ、約束破ると思ってたわけ?」

「はは、ゴメンな、お詫びに最高の演奏聞かせてやるから」

「ミスったら、ブーイングしてあげるからね(笑)」

 そう言って美鳥はステージが一番よく見えそうなところへ戻っていった。まあ80%(ボーダー)

くらいは演奏できるかな(汗)

 

『さぁ続いては、人数は少ないが精鋭揃い、バンドクラブの登場です!!』

「「「キャー!!」」」

 思いも寄らぬ黄色い声援に驚いたが、よく考えてみればその大半は針井に向けられている

ものだった。当の針井はいつものごとくしらっとしていたが。そして宗谷は、

『静かにしなさい。』

 マイクで音量は大きいが、声は押さえつけたように静かで低い声。それに圧倒されて女子たちは

静まり返る。姐御(男に恐れられてる)っていうか、女番長(女にも恐れられてる)って感じだな……

ともかく俺は落ち着いて演奏できるよう譜面と鍵盤しか見ていなかった。音を外すならまだしも、

どこを演奏すればいいかわからず手が止まるなんてことは避けたい。譜面が上から降ってきたら

……なんて余計なことは考えないように……

「それじゃいくで?」

 部長の声にみんなうなずく。この曲はドラムだけで始まるからあわせやすいよな……その

初めのリズムが部長の持つスティックによって作り出された。3小節後には俺も指を動かさ

なくてはならない。2小節、1小節、そして……

巫琴 & 瑠璃絵

 

「ま、アンタにしては頑張ったんじゃないの?」

 俺の出番が終わって引っ込んだあと、同じく休憩中の宗谷が慰めの言葉を。というか俺が

間違えたのは1箇所だけなんだけど、1箇所だけにやけに悔しさが残る……まあ拍手は

もらえたんでいいんだけどな。

 で、今宗谷が恨めしそうに見ているのは、針井のギターに合わせて瑠璃絵さんが歌っている

ステージだった。瑠璃絵さんの歌を多くの人に聞いてもらうための俺の提案に、針井が賛成

したことから宗谷も認めざるを得なくなったと。

「あたいだってあのくらい歌えるのに……」

「宗谷にバラードは似合わんだろ(笑)」

「どーゆー意味よ」

「……もっとアップテンポでカッコイイ曲の方が宗谷らしいってことだよ」

 にらまれて今にも手が出そうだったので適当にいいことを言ってごまかしておく。こんな日に

殴られるのは嫌だからな(いつだってそうだが)。でも俺が言ったことはあながち嘘でもないな、

男勝りでもその方が宗谷らしい気がする。まあ俺がそういう面しか見てないから、というだけ

かもしれないけど。

 

 学園祭の飾りも、終わればただのゴミ。当然ながら後片付けも全て生徒の手で。だから学園祭が

終わった後2時間以上帰れなかったから、終わって学校を出るときはもう日が落ちていた。

クタクタだし、腹も減ったし、今日も6thはできそうにねぇな……

「学園祭、お疲れ様」

 瞳由ちゃんも最後までお化け屋敷の撤去に参加していたため、帰る時間は同じだ。そういえば

並んで帰るのは久しぶりのような気がする。

「ま、お互いにお疲れさん」


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