誘惑に負けて


「いくぞ?、せーの……」

「「ドン!!」」

「ええ、1点差!?」

「おお、俺の勝ちだ♪」

 いつぞやのWritingでの借りを返したぞ、佑馬が74点で俺が75点(汗)。まあ今回は皆

難しいって言ってたからまあこんなもんだろう。しかし接戦なだけに佑馬も悔しそうだなぁ……

俺はその分嬉しいけどな(笑)

「くっそー、じゃあ次は現国っ!」

「……きたか」

 俺が苦手で、佑馬がなぜか得意な教科。多分負けてるんだろうな……まあ総合では自信アリ。

今回結構上位くるんじゃねぇか?フッ、周りで騒いでる奴らがバカに見える……って俺たちも

騒いでいるから人のこと言えんな。そういうときはいつものように瞳由ちゃんがこちらの方を

見ながら笑って……

「……?」

 その瞳由ちゃんの席のほうを見たのだが、当の彼女はこちらを見ていなく、なんだか表情が

暗いみたいだ。なんかあったのかな……?

瞳由

「おいテツ、早く出せよ」

「あ、ああ……」

 佑馬にせかされて視線を戻したが、その後は俺も上の空で、対決のことはあまり覚えて

いなかった。いつも明るい瞳由ちゃんなのに……

 

「瞳由ちゃーん」

 放課後、彼女がとぼとぼと帰るのを見つけて、俺が後から追いかけた。瞳由ちゃんはちょっと

振り返ったが、すぐにまた歩き出した。こりゃ尋常じゃねぇな……

「とっとっ……今日具合悪いの?」

「……ううん、大丈夫……」

 俺でもせめて明るく装ったりしようともするのだが、それさえもできないほど考えごとを

しているようだ。ここはひとつ俺が明るく接しなければ。

「もしや〜、テスト悪かったんじゃないの〜?」

 いつも真面目に勉強してる瞳由ちゃんに限ってそんなことは……

「……うん」

 ……ビンゴ(死)……自爆だ……まさかそれで落ち込んでいたなんて……俺だってテスト悪い

ときもあるけどそれは自業自得なんだし、それくらいで落ち込むこととは思いもつかなかったし

……やっぱ真面目な娘は辛いんだ……それなのに俺は……

「ゴメン……元気付けようと思ったんだけど、逆効果だったな……」

「……いいの、私が悪いんだから……」

「なんかあったの?」

 また聞くというのは、彼女を傷つけてしまいそうだったが、彼女がこれだけ落ち込んでいる

理由も知りたかった。そしてその瞳由ちゃんの答えは。

「……マンガ読みすぎちゃって……」

 …………

 コツ、コツ、コツ。

 しばらく2人が歩く靴音だけが聞こえてきた。マンガ、ですか……そんな子供じみた――

まあ瞳由ちゃんらしいというか……

「だって、Super-Abilityの新刊出てたの、忘れてたんだけどつい本屋で見つけちゃってっ」

 しかも親父のかい……しかしマンガ1冊読む時間くらいでは勉強に差し支えは……

もしかしてその前後の巻も気になって読んでしまったりして。俺もマンガ好きだった頃は

そうだったんだよな、新たな発見があると思って。

「それで勉強あまりできなくて、テスト中に何とか考えるんだけど、その度にマンガのことが

 浮かんできちゃって……集中できなかった」

 俺が考えるとビーマニの曲が出てくる、ってのと同じだな、ない記憶を探し出そうとして

一番量の多い記憶を引き当ててしまうとか。彼女の場合はそれでストーリーとかも

考えちゃったりしてもう……泥沼だな(汗)

「どうしよう……しばらくマンガ無理にでもガマンしようかな」

 マンガとガマンは似てる……ととても言いたかったが今そんなことを言っても何も解決

しないので留めておく。その代わりに

「ま、俺はちょっとホッとしたところもあるけどな」

「えっ、なーに?」

 俺の言葉にちょっとむくれたように見せる彼女。

「瞳由ちゃんは頭がよくて真面目だと思ってたけど、そういうお茶目でかわいいところも

 あるんだな、ってさ」

「おちゃめで、かわいい……」

 言われたことが予想していたことに無かったのだろう、オウム返ししている。そしてその意味を

思い出したらしく、少し顔を赤らめさせたように見えた。

「そ、そうかな(*^^*)」

「ああ、そう思うよ」

 嘘をついているわけではない。いや、嘘をついているとすれば、今初めてかわいいと

思ったんじゃなくて、もっと前からそうだと思っていたことだ。だがそれを口にするのは

さすがにはばかられた……俺の方が恥ずかしくなるって(*・_・*;

「また次があるじゃない、それに今そういう失敗したから、次からは同じ過ちはしないだろ?

 これが入試のときじゃなくてよかったじゃない(笑)」

 またも俺流の適当なフォローを述べてしまったが、今度は彼女の顔にも緩みが見えた。

「うん、なぐさめてくれてありがと、テツ君」

 その言葉を聞いて、俺もほっとした。なんだなんだ言って、彼女の笑顔は俺を和ませて

くれるよな……他の女の子の笑顔もそうなのかもしれないが、それは瞳由ちゃんが親しい

存在だからかもしれない。そしてまた和ましてくれるように……彼女の笑顔が見たいから、

俺は彼女を悲しませたくない。


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