ギャラリー


 あまりにも暑いのでマンションの部屋でクーラーかけて寝てたら、いつのまにか夜の8時とかに

なってしまった。腹は減ったが米を炊くのも時間がかかるし面倒なので、コンビニで済ませよう。

それにしても待つのは面倒なのに動く方がマシってのも変かも。逆よりは断然いいのだが。

 コンビニはゲーセン方向(学校方向とは逆)にあるが、当然だが今からゲーセン行くわけなく。

そばでも買って帰ろうとして、ふと今日は針井が路上でギター弾いてた曜日だな、と思い出した。

気まぐれそうなあいつだからわからないが、それよりも一緒にいた女の人にも興味があった。

やっぱり歌っているんだろうかとか。チャリの前カゴに買ったものを入れると、さらにゲーセン

方向へ漕ぎ出す。さっきも言ったが、ゲーセンに行くわけではないぞ。

 そろそろ大きな路。「大通り」ではなく「大きな路」なのは、車が通る道というよりは歩行者

天国のような所だ。といってもその歩行者も多いわけではないので、弾き語りには似合いすぎる

場所となっている。まるでわざわざ弾き語りのためにあるようにも思える。さて、針井は……

この前見たところには別のグループが歌を歌っていた。ギターは人並み以上だろうが、素人が

聞けばどれも同じでパッとしない。だからよほど目立たない限りこんな所からは売れないだろう。

 もう少し漕いでいくと――針井がいた。弾いているのは一人でだが、今日は聴衆が2人ほど

いるようだ、しかも他校の女子高生。演奏も上手いが、やはりルックスだろうな……あいつには

モテる要素がありすぎるから、宗谷が邪魔しなければ女子に囲まれ放題だろう。でも針井自身は

それはウザイと思ってるだろうから、宗谷がいた方が落ち着くのかも知れないな。だからといって

針井が宗谷のことを、ということでもないだろうけど。

 やがて演奏が一区切りつき、女子高生らが手を振りながら歩き去ったので、一応針井にあいさつ

しておくことに。

「よー、針井」

 向こうは、相変わらずの無愛想な反応だったが、無視よりはマシか。

「今日も弾いてんのか、好きだなぁ」

「……何しに来たんだ?」

「何しにって……様子見に来てやったんじゃないか、まあコンビニ寄ったついでだけど」

「それだけじゃないだろ」

 なにかギクリとなってしまう。別に針井の言い方にすごみがあったのではなくて、考えが

見透かされてるような気持ちになった。そうでなくとも、理由が別にあったのも確かだ。

「今日はまだ来てないが……そろそろ来るんじゃないか」

 ほら、言ってないのに(多分)瑠璃絵さんのことって読まれてるし。こいつから見れば俺って

そんなに女好きに見えるんだろうか(汗)これでもし俺が彼女のことを考えてなかったのなら、

針井の方が彼女を意識してると断言できるんだったんだがな……

 というわけでしばらく針井のそばで、そばでも食いながら待つことにした。針井は歌うわけでも

なくただギターだけだが、ちらほらと歩行者の足を止まらせることができる。まあその大半が

女性というのはさすがだが(何が)。しばらくぼーっとしていると、遠くから歌声が聞こえたような

気がしたが、針井の演奏でかき消されるほど遠い所から。そろそろこっちにも来るかもしれない。

 そして……オレンジ色に髪の毛を染めた瑠璃絵さんの姿が針井の方へ近づいてくるのが見えた。

そういえば、針井がハーフだってこと知らなければ、こいつも髪染めてると思われてるかも

知れない。お互い染めてる同士ということで彼女は針井の演奏で歌いたいのかも?

「こんばんは、社音くん。今日もいいかな?」

瑠璃絵

「……好きにしな」

 おいおい、こいつは年上にもぶっきらぼうなのかよ……まあ年上だけに媚びるというのも考え様

だけど。で、彼女の歌が始まった。やっぱいい声だなぁ……なんか子供のころを思い出すけど、

こういうのを懐かしいっていうのだろうか。だが俺が感銘を受けても、さっきほど立ち止まって

くれる人はなく。多分恋人同士でやってんのかよ、とか思われてるからかもしれない。確かに

二人並べば美男美女だし――宗谷よりも見栄えがするな、俺には。

「ありがとう、またね」

 3曲続けざまに歌ったが、彼女の喉は疲れるように見えなかった。針井にあいさつすると、

また別の弾き語りグループを探して歩いていった。

「……いい歌だったよなあ、針井」

「さぁな。声をかけるんじゃなかったのか?」

 さぁなって……それよりも、また針井に読まれたのだが、あまりにも聴きほれてしまって、声を

かけるタイミングを失ってしまった。まあ声をかけたからといって何を話すのかも考えてなく。

これじゃただのナンパだ……初めは針井の浮気(宗谷曰く)疑惑の真偽を確かめる気だったのに。

 家に帰って寝ながら、彼女にどうやって声をかけようか考えていたが、さすがに虚しくなって

やめた。というか俺が理想する「出会い」ってのは、女性の方から話し掛けてくることだ。

別にぶつかってドラマティックとかでもまあいいけど、俺のほうから寄っていくのは、下心が

あるように見えて嫌われるのではないだろうか。それはただ俺が臆病で奥手、ということだけかも

しれないが。しかし、最近の俺は本当に奥手なのか疑わしくなってきたぞ……?


Next Home